東京 マンスリーマンションのこんな対策

戸建ては高くて買えないからマンションだ、という消極派から、立地のよさや高層階からの眺望、あるいは防犯性などを理由にした積極派まで、たくさんの人が戸建てではなくマンションを選び、住み続けています。 事実、首都圏ではマンション世帯が全世帯の60%を超しています。
地方都市でも駅前にマンションが目立つようになって久しいものがあります。 ただし、マンションと戸建て住宅は「住まい」としてみると、まったく別の居住形態といっても過言ではありません。
このことを正しく理解していなければ、マンション選びはうまくいかないでしょうし、後悔することになる可能性が大です。 その違いとは、住まいの主体が「個人」か「集団」か、ということに行き着きます。
個人には他人に左右されない自由があり、集団には他者との関係という制約があります。 一方で、個人の力には限界があり、人とカネを集約できる集団には個人にはない可能性があります。
マンションを、もしも「戸建てが立体的に積み重なった住宅」と考えているなら、それは大きな誤解です。 戸建てには隣人やご近所がいて、「他人との関係」は大切な要素です。
でもそれは、独立した所有者同士の援やかな任意の関係であり、土地と建物を共有するマンションでの関係ではこれとは、まったく異なった近所づきあいが大切になります。 「マンション選びに新しい視点を」ということを、この本では提案していきたいと思っています。
では、それはどんな視点なのでしょうか。 マンションを分議するのは不動産会社で、その業界が「不動産業界」と呼ばれていることは、いまさら説明するまでもないでしょう。

「不動産」というのは「土地」や土地と一体となった「資産」のことで、私たちは知らず知らずのうちに資産・財産という目で住宅を捉えてきました。 あるいは、住宅の設計や建設に着目して、建物のデザインや機能性という視点で住宅を捉えてもきました。
もちろん、マンション選びにこのような視点は不可欠です。 資産価値や機能性などは戸建て住宅を選ぶ時にももちろん不可欠なポイントです。
では、戸建てとマンションの本質的な違い、あるいはマンションならではの価値を高めているものとはなんでしょうか。 そこに「マンション選びの新しい視点」があるのではないか、と私は思うのです。
それはどのようなことなのでしょう。 話は私がマンションの建替えという仕事に出会ったところまでさかのぼります。
建替えの現場で見てきたこと私の仕事は再開発プランナーといって、駅前などでよく見かけるまちの再開発事業のコンサルティングを行うのが本業です。 といっても建築や都市計画が専門ではなく、学校では法律や政治学を勉強した生粋の文系人間です。
ですから、再開発やまちづくりの仕事に関わっていますが、都市の構造とか建築的な事柄よりも、そこに関わる人間の動きや集団心理、組織のモチベーションなどが関心の中心でした。 そんな私がマンションの問題に仕事として本格的に関わるようになったのは数年ほど前のことです。
マンションに関連するさまざまな課題を検討する組織が立ち上げられ、私はマンションを選ぶ前にそのプロジェクトの手伝いをするようになったのです。 阪神・淡路大震災で損壊した多数のマンションでの建替えが、法制度の不備や合意形成の難しさからさまざまな困難に直面したことに端を発して、幻世紀に向かい、急速に増加していく老朽化したマンションをどうするか、とくにほとんど不可能といわれていたマンションの建替えをどのように進めるかという研究が始められたのです。

そこでの結論は、現行制度の下ではマンションの建替えはほとんど実現不可能であり、将来は建替えもできず修繕もされないままスラム化するマンションで溢れるだろうというものでした。 研究会の席で、ある委員が述べた「こんな結果、恐ろしくて新聞にも出せませんね」という一言が、長く耳の奥に残っていました。
その後、偶然にも東京都大田区にある萩中住宅団地の建替えにコンサルタントとして関わることになり、初めてマンション建替えの現場にタッチしました。 5階建て8棟、368戸の団地です。
その中で、30年近くの長い間、建替えをめぐってさまざまな葛藤が生まれ、多くの人の生活と人生が揺れ動き、ようやく2006年3月、534戸時階建てのマンションに生まれ変わりました。 長い間の苦労が実り、新しいマンションに移り住んで、エレベーターがないために強いられてきた階段の上り下りや狭い住戸から解放され、前向きに新しい生活を再開する人たちがいる一方で、建替えに反対し、結局転出していった人たちも少なくありませんでした。
住民全員が一致して同じ方向を向いて進むのは難しいことだと思い知らされました。 建替え問題は、マンションに住む人、所有する人に、「あなたたちは運命共同体です。
これからあなた方はどうしますか」という究極の問題を投げかけているのです。 そして2005年の暮れ、いわゆる「耐震強度偽装事件」が発覚します。
私たちが当然のこととして信じてきた「マンションは安全である」という認識は、制度や仕組みが正しく機能するという善意の前提に立った幻想であったことに、改めて気がついたのです。 そして、同じマンションに住む区分所有者はまさしく同じ船に乗った運命共同体の一員だ、という事実を再確認しました。
法律に定めた手続きに従って建築確認審査が行われれば、そこに瑕疵は存在しないという「理想」。 名の知れた不動産会社によって販売された新築マンションは欠陥もなく安全だろうという「幻想」。
そして、安全が幻想であるとわかった瞬間にすべての区分所有者が運命共同体の一員として等しく共有せざるを得なくなった「現実」。 マンションの理想と現実をこれほどまざまざと見せつけた実例がこれまであったでしょうか。
平和な時にはだれも自分たちが運命共同体だ、などということを取り立てて意識することもないでしょう。 ところが、大きな危機に直面した時、その危機を回避できるかどうかで共同体の価値が関われることになります。

耐震強度偽装事件は、マンションの購入者にとってなんの責任もない不可抗力の事件でした。 彼らはまさに真の被害者であると思います。
しかし、不可抗力であろうとなかろうと、加害者に資力があろうとなかろうと、自分たちが乗った船に大きな欠陥がある事実から逃れることはできません。 船の運命は乗員である自分たちの手に委ねられているといっても過言ではありません。
マンションを選ぶ前に同じように事件に巻き込まれたマンションの中でも、比較的早期に問題解決に踏み出せたものと、そうでないものがあります。 それぞれのマンションの欠陥の状況や程度、あるいは関係する行政や企業の姿勢や力の差もさることながら、そこには危機に直面した集団の個性と一体感の違いが大きな影響を与えているのではないかと思います。
耐震強度偽装事件からひるがえって考えた時、同じ事実がゆるやかなスピードではありながら、しかし確実に日本中のあらゆるマンションで起きているのだということに皆さんは気づいているでしょうか。 つまり、どんなに堅牢なマンションでもいつかは老朽化し、大規模な修繕改修や建替えを考えなければならない時は必ずやってくるのです。

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